各種設定・Ⅰ


■魔王

 勇者の相手をする「役職」を指します。
 魔界の王、魔族|《悪魔》の王という意味合いはありません。

 ただし、それはあくまで魔族側の考えで、人間からは後者だと思われています。
 そのため勇者は「魔族の王である」魔王をラスボスだと信じ、魔王を退治しに来る者は後を絶ちません。
 実際には魔王を倒したところで次の魔王が就任するだけなのですが。
 そうして何百年も何千年も、倒しても倒しても魔王は存在し続けてきました。



 居城は人間界にあるノイシュタイン城です。
 俗称は「悪魔の城」。そのままですね。

 これは「勇者専用窓口」である魔王が勇者に見つかりやすくするためのものです。言いかえれば「実際に人間を狩っている魔族」は魔界にいるため、人間側からは見つけにくくなっています。

 ノイシュタイン城は領主の居城としての面も持っています。
 (※詳しくはノイシュタイン城の項目に書きます)



 魔王はノイシュタイン城城下町及び近隣町村の領主という別の顔を持っています。
 これは今に限ったことではなく、代々の魔王にずっと受け継がれてきていることでもあります。

 ただ、歴代の魔王は魔族の自負もあってか、人間と必要以上に慣れ合うことはありませんでした。
 いつか狩って食べてしまう対象に情が移らないようにしたのかもしれません。
 それが領民側からすれば「自分達に関心の無いただそこにいるだけの領主」という印象しか与えませんでした。

 ですので、青藍のようにこまめに城下に顔を出す領主は珍しく、また見た目が若いこともあって、領民(特に奥様方)から可愛がられています。



 領主が頻繁に代替わりすることについては、

 ・領主一族は、遠い場所に住んでいる。
 ・ノイシュタイン周辺は領主の本邸から遥か遠方にあるので、ひとりで来ることが多い。
 ・領地が他にもあるのでノイシュタインだけにかまけてはいられない。城主が替わるのは、帰らざるを得なくなった前城主の代わりに一族から他の誰かが来るから。

 ……というのが、城下の民側で信じられている見解です。
 城下の者と全く交流がないまま「悪魔の城」に住んでいれば、悪魔の仲間ではないか、などと疑われる恐れがあるから、という説もあります。
 いろいろと疑わしいことは多いのですが、もう何百年も何千年もそうなのだから、と城下町側が無理矢理納得することで平和は保たれています。

 なお、「悪魔の城」の悪魔は城の外には出てきません。
 城下町及びノイシュタイン領主(魔王)の領地は他の魔族が狩りをすることは許されていないので、魔王が狩りをしない限り悪魔に襲われることがありません。
 自分達が襲われないので「悪魔の来襲というもの」に対して危機感が薄いというのが現状です。



 主な収入源は税収、それ以外に魔界のほうから活動資金が入ります。これだけで城の修繕費から食費までまかないます。
 活動資金は魔王を排出している家から届けられます。今の場合はメフィストフェレス家から入金されます。ノイシュタイン側から報告される毎月の勇者来歴によって、次の入金額が変わります。



 上記にも記載しましたが、その領地は魔王(及びその魔王を輩出した家)の土地になりますので、その任期の間は他の魔族が人間狩りをすることはできません。
 但し魔王交代のための不在期間だけは、どこの領地にも属さなくなります。


■魔族

 人間側からの呼称は「悪魔」です。
「魔族」とは魔族側とそれに準じた者 (ルチナリスなど)からの呼称になります。
 自ら「闇の眷属」と名乗ることもありますが、夜行性ではありません。


 見た目は人間と同じですが、魔族は人間よりずっと長命です。
 数千年の齢を持つ者もいます。
 ヴァンパイアがひとを噛むことで仲間を増やすように、魔族には人間を一族に迎え入れるための儀式というものがあります。しかし成功率が大変低いので、あまり行われることはありません。 


 魔族はそれぞれ生まれながらに魔法属性をひとつ持っています。
 その属性の魔法なら詠唱なしに発動することができます。
 それ以外の属性魔法を使うことはできません。
 属性魔法以外に、結界のような無属性の魔法もあります。こちらは人間と同じように詠唱することで発動します。
 (※魔法の項参照)


 魔族は人間を餌として狩ります。
 人間が口にするような一般的な食料も食べますが、人間の血肉は(魔力の源としても)最上級の美味とされています。
 しかしそれぞれ好き勝手に人間を狩るといろいろと問題も起きるので、魔族内では各家の領地(あくまで魔族側で勝手に決めた領地=狩場で、そこに住む人間側が了承しているわけではありません)内でのみ狩りをすることが許されています。
 ※ただし、低級魔族(例に上げるとすれば野生の熊などに準ずるもの)は家や領地などに関係なく人間を襲います。

 最近は人間のほうでも武器開発が進んだため、人間狩りは以前に比べて減っています。
 それが人間の血肉をさらに貴重品にしています。

 魔族が人間を狩る=魔族は人間の敵。魔王は魔族の王。その魔王を退治してしまえば魔族の横行も無くなる。
 そんな考えから、勇者は魔王討伐を目指します。
 実際には魔王を退治したところで人間狩りはなくならないのですが。
 (※魔王の項目を参照)


 魔族は名前を付ける習慣がありません。
 お互いには身体的特徴(羽の色、目の色など)で呼び合います。
  ※一例として、アイリス、青藍などの呼称は目の色からとられています。

 しかし第三者の話題に名が上って来るあたりになると決まった名前がないと不便なので、生まれた時に決められた呼称で一生呼ばれることが多いです。
 ※たとえば「アイリス」はヴァンパイアの妹姫を、「青藍」はメフィストフェレス本家の次男を指す、というのは既に共通認識となっているので、名前のように誰からもその呼称で呼ばれることになります。

 が、ガーゴイルなどは個々を特定する必要性がないので、決まった呼称は持っていません。
 グラウスのように途中で名前を変えてもなんら問題にはなりません。
 アンリのように人間界で使っている名前をそのまま魔界で使っても一向に構いません。
 プライベートの呼称とは別に、公として「〇〇侯爵」や「〇〇夫人」という呼称で呼ばれることもあります。

 
 魔族の主な生息地は魔界ですが、人間界にも存在しています。
 低級魔族を除いて言えば、人間のふりをして人間に混じって生きている者と、別荘のように人間界にも家を持ち、たまにやって来る者の2種類に分けられます。
 ※前者の例としてはグラウスの実家、後者の例としてはアーデルハイム侯爵が挙げられます。

 魔族にファミリーネームは存在しませんが、人間界にいる時はファミリーネーム(魔族としての一族の名前ではありません)を名乗ります。
 本編で名乗る機会がないので明記していませんが、青藍も人間界用のファミリーネームは持っています。

■魔族の魔法

 魔族にはそれぞれ持って生まれた魔法属性があります。
 その属性の魔法であれば、詠唱なしに強力なものも放つことができます。
 しかし、自分の属性以外の属性魔法は使うことができません。

 属性魔法を応用して別の属性を生み出すことも稀にありますが、魔力消費量が尋常ではないので誰でもできるわけではありません。
 ※炎から風を生む、など。

 結界のような無属性魔法であれば詠唱することで発動することができます。
 が、詠唱の文言が長いので好んで使うことはありません。


 人狼族、人兎族などは、その種類の獣に変化することができます。
 同じ種類の動物には協力を乞うこともあります。
 自らの姿を変えることなく動物を使役する者もいます。使役できる種類は動物との相性により異なります。


 魔眼という特殊な魔力を宿す者もごくわずかですがいます。
 これは目の色が紅に染まるのが特徴で、発動すると攻撃力が上がりますが性格そのものもやや攻撃的になります。
 魔眼にはもうひとつ、相手を意のままに動かせるという力もあります。
 魔眼は遺伝によるものではなく、何故その目を持って生まれてくるかは未だ解明されていません。


■人間の魔法

 人間の中にもごく稀に魔法が使える者がいます。
 先祖返りしたのだ、とか系図の中に魔族と交わったものがいたのだなどと、説はいろいろあります。
 
 魔法を使う時は呪文を詠唱し、また魔力の伝達を補うため、杖などの道具を使用します。
 どの属性魔法でも使うことができます。
 
 昔は悪魔と間違えられて火あぶりにされることもありましたが、「魔法使い」という職業が浸透してきた昨今、魔法が使えるだけで迫害されることは少なくなりました。


■四大精霊

四元素を司る精霊。ジルフェ(風)、サージェルド(火)、ウォーティス(水)、メイシア(大地)の4人が存在します。
が、4人揃うことはなく、いつも誰かひとりが欠けて(眠りについて)います。
それは4人揃うことで世界を滅ぼしかねない力が生成できてしまうためで、欠けている部分は精霊の力が込められた|結晶《タリスマン》が、その力を徐々に放出することで補っています。
|結晶《タリスマン》の力が切れた時、眠っていた精霊が目覚め、別の1人が眠りにつきます。

赤子が生まれた時に4人のうちの1人が加護を授けます。
魔族がそれぞれ個々に持っている魔力は彼らの加護を受けたためと言われています。
人間にも加護を授けていますが、人間は魔力を持たない者が多いため気付かない者のほうが多いです。
精霊の性質上、魔族と人間のどちらか片一方に与《くみ》することはありませんが、ウマが合う、合わないというのはあるようです。

■聖女について

 この世界の|人々《人間》の間で信仰の対象とされているのが聖女です。
 正式には「ロンダヴェルグの聖女」といいます。
 町や村にある教会には彼女の像があり、人々はその像に祈ります(キリスト像のようなものです)。

 この「聖女」は信仰の対象としての偶像ではありません。
 本人は聖地であるロンダヴェルグの教会にいました。過去形なのは最後の聖女が100数年前に行方不明となり、次の聖女が決まらないままになっているからです。
 ただ、消えたと言うことが一般の人々に知られると混乱するので、今でも実在していることになっています。

 聖女も魔王と同じく、何百年もの昔から世代交代して続いてきました。
 前の聖女が亡くなると神託が下り、次の聖女が現れます。前の聖女の縁者や亡くなった土地の近辺に現れることが多いとされています。
 今回のように生死不明の場合は神託が下りないので(聖女が生きている扱いになっているため)、最後に消息を絶った場所の付近に住む娘を次の候補と定めて、後継者を探しています。

 魔族を滅する力を持つのは人間では聖女ひとりだけなので、今の聖女不在の世界では魔族の横行を止める者がいません。
 天使という存在もいるにはいますが、彼らは人間界にそれほど干渉してきません(ほぼ放置)。下手に干渉して魔族との全面戦争に飛び火するのを避けるためではないかとも言われていますが、真偽は不明です。

 人間たちも武器を作っていますが、天使や聖女の力ほど確実な抑止力はありません(それでもただ狩られるだけの頃に比べれば段違いですが)。

■ 闇

 光の対極にあり、四大属性(炎・水・風・大地)の干渉・不干渉の輪から外れるもの。

 光属性が人間界における聖女ひとりが有する属性とされるように、闇は魔界にあると言われています。
 が、魔族は本来、四大属性しか持たず、干渉の輪から外れる闇は四大属性では対処できないこともあって、古くから封印され、その場所は極秘とされてきました。
 今回、騒動を引き起こした闇は、強大な力を手に入れようとした者が人々の負の感情を集めて作り上げたものの、結局手に負えなくなって封印したものになります。

 《以降ネタバレ注意。本編読了後にご覧になることを推奨します》


 今回の騒動以降、闇は光同様、全ての人が持っているもの、と考えが改められました。
 人工的に集めたりしなければそれぞれで対処できると結論づけられたため、個々の闇はそれぞれが抱えて生きることになります。
 もしかすると、何十年、何百年の先に、再び闇を人々から集めて戦力にしようと考える者が出てくるかもしれません。


 闇に呑まれた者は自分の中の最も大切に思っている記憶を失います。
 
 紅竜はキャメリアを救いたいという想いを
 キャメリアは「キャメリア」として生きていた過去を
 メグは生まれてから今までの自分自身を
 |犀《さい》は第二夫人から課せられた使命を
 アイリスは家のためではなく自分のために生きたいという願いを
 グラウスは25年前に出会った姫への恋慕を
 青藍はノイシュタインでの日々を

 それぞれ失っています。
 呑み込まれ具合によって症状の重軽はそれぞれです。