【2015/12】お題:年の瀬


 

2015年12月(第十七回)のお題「年の瀬」で書かせて頂きました。

スペース除く300字。

ジャンル:オリジナル 

 

【段ボールの中の】

 

 

12月。

 

 あと1ヵ月で年が変わるからか、

忘年会だ、年越し準備だ、といった

他の11ヵ月にはない雑務が増えるからか。

 世間が慌ただしい。

 

 でもそれは外の世界の話。

  隙間風が入るボロアパートはいつもと変わらない。

 

 

 

 押入れに押し込んでいた段ボールを引っ張り出す。

 これは今年の春、上京する僕についてきた荷物のひとつ。

母の字で「こたつ布団」と書いてある。

 出すのも面倒と思っていたけれど、さすがに限界だ。

 

 

 世間はともかく僕は帰省しない。

 父と喧嘩して今の大学に入ったからには。

堂々と帰れる時が来る迄は。 

 つまんない意地だけど。

 

 

 

 布団の隙間には真新しい 半纏(はんてん)と湯たんぽ。 

 見えなくなるまで玄関先にずっと立っていた

母の姿が 過(よぎ)った。

 

【ニッポンのオショウガツ】

 

「今年は 日本式ジャパニーズスタイルでいこう」

 

 兄がそんなことを言い出した。

 

「必要なものはモチ。カガミモチ。シメカザリ。オトソ。オトシダマ」

 

 聞いたこともない。

 言い出した兄は知っているのかと問えば、知らないと言う。

 

 

「どんなものかはわかるぞ。モチは白くて柔らかい」

 

 マシュマロのようなものだろうか。

 

「カガミモチは白い2段状のものにオレンジを乗せる

。シメカザリは編んだ草に木の実や紙細工をつけた飾り。

オトソは透明な酒」

 「オトシダマはあれだよね?」

 

 妹が飛び跳ねる。

 

 

  *:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*

 

 

 テーブルの上にはケーキとマシュマロ。シャンパン。

 ドアにはリース。

 

「オトシダマは?」

 

 これだよ! と妹が出してきたのはピンボール盤。

 

 

  間違っていると知ったのは、かなり後のこと。