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2015年6月(第十一回)のお題『雨』で書かせて頂いたものです。
三部作となっております。
1.【雨の日はきみを想う1-紅い傘】
2.【雨の日はきみを想う2-海月、二匹】
3.【雨の日はきみを想う3-手術前夜】
(三作共に、ジャンル:オリジナル/注意書き:BL)
黒い傘の群れが校門に吸い込まれていく。
傘の花が咲く、なんて言うけれど、
それならさしずめ葬式用だろう。
男子校なんだから仕方がない。
その中でたったひとつ、紅い花を見つけた。
「男が紅い傘とか無いわー」
「何言ってんだよ。
そうじゃなくても暗いのに、黒い傘なんかさしたら気が滅入る」
そう断言されてしまうと、
自分の傘の中のなんと暗いことか。
彼が傘を差しかけた。
黒い花から紅い花へ、身をかがめて覗き込む。
そこから見る世界は実に鮮やかだ。
街も木も、同じ景色ではない程に。
「断然いいだろ?」
得意げに笑う。
「黄色もおすすめだよ」
「小学生かよ」
彼の頬が紅いのは、きっと傘のせいだろう。
僕の頬が同じ色に見えたとしても、
きっと。
濡れたシャツが貼りつく。僕はそこに立ち尽くす。
それに比べて水の中のきみは、何に囚われることもなく漂う。
否、囚われているのかもしれない。
僕たちを遮るのは、水面と言う名の境界。
その境界からきみは、決してこちらに来ようとはしない。
空を見上げた。
一面の鉛色。きみを呑み込んで広がる水と同じ色。
モノトーンの世界で、仰向けに浮かぶきみだけが白い。
「何もこんな日に泳がなくたって」
「水の中なら同じでしょ」
きみが手を差し伸べる。
「制服だよ」
「同じでしょ、もう」
きみの目が情欲に塗れたように見えるのは、
この暗く歪んだ水のせい。
絶え間なく降り注ぐ雨のせい。
「おいで」
鉛色の水の中で、シャツがふわりと膨らんだ。
海月、二匹。
「雨って言うのは、神様の涙なんだよ」
降り続く雨の中、彼はそう言って空を見上げた。
白い寝衣が貼り付いて身体の線がわかる。
こんなに細かっただろうか。
「こうしているとね、僕の中も悲しみでいっぱいになるんだ」
神様の悲しみが?
そう問うと、彼はわずかに微笑んだ。
他人の分まで受け止めることはない。
ひとの身体は一人分しか容量がないのだから。
「大丈夫、僕は空っぽだから。それに、」
ほら、と空を指差す。
「僕が受け止めた分だけ神様は元気になれる」
喜びも幸せも、もうきみの中には無いのですか?
「……半分寄こせ」
彼の腕をつかんで引き寄せた。
きみを犠牲にする神なら、そんなものはいらない。
どうか。
明日のきみに会えますように。