【2015/08】お題:お盆


 

twitter300字ss様、

2015年8月のお題『お盆』で書かせて頂いたものです。

二部作となっております。

 

【精霊馬1-胡瓜】※お盆初日

【精霊馬2-茄子】※最終日あたり

 

ジャンル:オリジナル

注意書き:BL

スペース・改行除く299字

 

【胡瓜】

 

 

花屋の店先に見慣れないものを見かけた。

作り物の茄子と胡瓜。

棒を刺したそれは、見方によっては動物にも見える。

 

「精霊馬って言うのよ」

 

店名の入った赤いエプロンの女性が言う。

 

胡瓜の馬は霊が早く戻って来られるように。

茄子の牛はゆっくり帰って行くように。

 

「買うの? 言っちゃなんだけど、野菜買って作ったほうが安上がりよ」

 

胡瓜1本30円。茄子1袋198円。 

確かに。

費用を比べれば、1頭どころか6頭立て馬車ができそうだ。

 

 

 

 

 

「で、これはなに?」

 

不格好な飛行機を手に、きみが笑っている。

 

「お前、図工1だったろ?」

 

笑い続ける友に、僕は恨みがましい目を向ける。

最速を考えたらこうなったんだ。

墜落しなかっただけ、いいじゃないか。

 

【茄子】

 

 

縁側に腰かけたきみが、胡瓜の馬を弄んでいる。

 

「早く帰って来られるように。か」

「何だよ」

 

不貞腐れた僕の声に、きみは口籠る。

 

「……茄子は?」

 

茄子の牛は、ゆっくりって行くように。

 

「茄子は、無い」

「失敗したの?」

「作ったら帰っちゃうんだろ?」

 

垣根の向こうで灯篭の灯が揺れる。

あれは、霊を送る灯。

 

「お前ねぇ。これはただの風習で、」

「だけど!」

 

抱きしめた身体はやけに冷たくて、

プールの底を思い出す。

冷たくて澄んでいるのに、真っ暗に見えるあの水を。

 

 

きみを失ってから

何度あの暗闇を見ただろう。

飛び込めばきみに会えると、何度思っただろう。

 

 

「……帰らせない」

 

わかってるんだ。

明日になったら、きっと、

  

きみはいない。