バレンタイン番外編2016。
同バレンタイン番外編2014『Valentineday kiss』、
ホワイトデー番外編2015『ビスケットの星をきみに(https://ncode.syosetu.com/n3865ec/12/)』
を踏まえた作品ですが、単独でも読めるかと思います。
※コメディ強め・BL・ちょいエロ(当社比)です。
バレンタインの時期がきた。
人間界のイベントなどに興味はなくとも、いい加減覚えた。前回は義妹《ルチナリス》のお手製・物体Xに遅れを取り、あまつさえそれを食べさせられた。
忘れようがない。
だからそのバレンタインと対をなすホワイトデーなるものの時は、義妹《ルチナリス》に対抗してクッキーを焼いてみた。
結果は……まぁ、よかった……のかもしれない。
全く、自分の無知さが嫌になる。
人間界のイベントにしても、隠喩《いんゆ》表現にしても。
これでも秀才で通ってきたつもりだったのに、今までの私はいったい何を学んできたと言うのだろう。
学校で習ったことが日常生活で役立ったことなどほとんどない。サイン・コサイン・タンジェントなど、全くもって使わない。
あれを覚えることで人生で何かの益になったと言うのなら、何があったのか聞いてみたい。
だが、今年は。
文献を読みあさり、町の雑貨屋だけではなく百貨店にも足を延ばした。今年の流行《はや》り、店のおすすめ、購入満足度№1もリサーチ済みだ。
決して義妹《ルチナリス》の物体Xにおくれは取らない。
目の前に置かれた完成品を見る。
ビターチョコでコーティングされた小ぶりのケーキの上に、赤い薔薇と白い蝶。どちらもチョコでできている。
似たようなものを店では1000Gで売っていた。手作りである分、プレミアム感は上だろう。
上だろう、けれど。
本当にこれで大丈夫なのだろうか。
贈り物は完成度じゃない。心だ。と言われれば、どこの誰よりも込めていると自信を持って言うことができる。そう、あの義妹《ルチナリス》よりも。
しかし、どれだけ込めたつもりでも、受け取った側に伝わるとは限らない。
そうでなくとも、町の奥様連中から大量に義理チョコを受け取ってくるのだろう。
義理とは名ばかりの、きっとそれぞれに「自分こそ一番」と心を込めているであろうものを。
そんなものが大量に襲ってきたら、私の愛とてその中のひとつに落ちてしまう。
そうだ、インパクトだ。
頭の中で何かが閃《ひらめ》く。
これだってかなり目を惹くとは思うが、ラッピングしてしまえば他と同じ、ただの小綺麗な包みでしかない。
前回、彼が受け取っていた義理の中にはホールケーキの箱があった。
あれはインパクトがある。何より大きさで。
ならば、さらに大きなものを作ればいいのか?
しかしあの人は甘いものが苦手だ。事情を知らない奥様方ならいざ知らず、10年お仕えしている自分が苦手なものを贈るというのはどうだろう。
独りよがりで何も考えていない、などとかえって評価を下げる結果になりかねない。
「で?」
目の前の巨大なボウルになみなみと注がれた茶色の液体に、青藍は怪訝な目を向ける。
匂いからすればこれはチョコレートだろうが、それをどうしろというのだろう。
バレンタインに贈られるものと言えば普通は固形。
手作りにしろ市販にしろ形は様々だが、それを綺麗にラッピングして渡されるのが普通だ。
液体ならホットチョコレートなるものがあるが、それだってボウルに入れて渡される|云《い》われはない。
「ええ、ですからこれをこうしてですね」
生真面目な顔のまま、指でその溶けたチョコレートを掬《すく》い、グラウスはそれを自分《青藍》の口元に差し出してくる。
どういうことだ?
まさか、この指を舐めろってことか!?
後ずさっても、後ずさった分、ボウルを抱えたまま迫って来る。
魔王として勇者と命のやり取りをするときにだって感じなかった言い表しようのない恐怖を、目の前の執事から感じる。
何ですか?
いったい何の罰ゲームですか?
俺、何か気に障《さわ》るようなことしましたか!?
「本来なら体に塗りたくって舐めてもらうのが正式だそうなんですが」
「……いや、あの、」
残念そうに言うんじゃない。
何を参考にしたらこうなるんだ!!
診断メーカー様のお題、
『グラ青で「息がつまる程の愛を」
というタイトルに沿って
同人誌の表紙っぽい絵を描いてください。
#同人誌の表紙っぽいの https://shindanmaker.com/657619』
より
同人誌の表紙らしくない絵と、
ついでなのでSSもつけてみた次第。
お題と表紙絵に反して
全くイチャつきもエロもないまおりぼスピンオフ。
この人は”勇者”を殺さない。
生かしておけば再び剣を握って向かってくることは明白なのに、息の根を止めることはしない。
「何故、って。戦意を喪失した者にそこまですることはないだろう?」
そう言うけれど。
喪失するのは敗北に打ちひしがれているわずかな間に過ぎない。
生き永らえたことを実感した時、戦意は奴らの胸に再び灯る。
何度も。
何度も。
おごり高ぶったプライドを何度へし折ってやったって、奴らは戻ってくる。
そんなことは、この10年で嫌と言うほど身に染みているでしょう?
何故。
あなたは”魔王”であるはずなのに。
奴らはあなたを殺しに来ているのに。
奴らの望みどおりに叩きのめしてやればいい。魔王に刃を向けた時点で死ぬことも辞さない覚悟くらいできているはずだ。
なのに何故、そんな相手に救いの手を差し伸べる必要がある?
非情でなければいけない”魔王”に優しさなどいらない。
いや。
いつかその優しさが……あなたを私から奪い取って行ってしまう日が来るのが怖い。
「安心しろって。お前らが逃げる時間くらいは作ってやるから」
「そんなこと頼んでいません」
もしあなたが凶刃に倒れる日が来たら。
あなたは最後の力を、私たちを生かすために使うのでしょう?
「お付き合いしますよ、何処までも」
「冥府までついて来いとは言えないな」
「寂しいのは嫌いなくせに」
「お前らが何処かで生きていてくれると思えば我慢できるよ」
「……嘘つき」
あなたの”想い”はあなたを滅ぼす。
手足を絡めて、口を塞いで、そうしてあなたを闇の底へ連れて行くのだろう。
だから、
その時は、一緒に。