とある夏の戦い


 

……青藍様、ギャンブルに弱すぎる……。

 




「青藍様、かき氷を食べませんか?」

 そう言いながら執事《グラウス》がやって来たのは午後2時を過ぎた頃だった。

 今年は近年例を見ない猛暑であるらしく、30度を超える日が続いている。
 さすがに山の中腹にある城はまだ過ごしやすいが、城下町は此処《ここ》まで上って来ようと思うことすら億劫《おっくう》になる暑さであるらしい。おやつは城で食べることに決めているのか? と疑いたくなるほど押しかけて来ていた町長も、この数日はぱったりと足を止めている。

 なので、と言うわけではないだろうが、彼が手にしていたものはいつもの紅茶と菓子のセットではなかった。




「かき……氷?」
「ええ。氷を削って蜜をかけたものです。先日削り器を手に入れまして」

 予算が足りないというのが口癖の執事にしては珍しいこともあるものだ。
 まぁ彼の場合、氷は自給自足できるわけだから、世間一般にはまだ出回ってはいない「かき氷」なるものもそれほど手の届かない珍品ではないのだろう。
 折《おり》しも1日で最も気温が上がる頃。そこに現れた氷菓は興味をそそられる。
 だが。

「匙《スプーン》が2つ」
「ええ。一緒に食べましょう」
「……これを? 俺と、お前で?」
「はい」

 入って来た時からずっと笑みを絶やさないグラウスにうすら寒いものを感じる。
 よくわからないが、ひとつをふたりで食べるというのはかなり親しい者同士ですることではないのか?

「親しいでしょう? たまには友人として、どうですか?」

 いや、どうですか、と聞かれても。
 確かに友人は「親しい者」に入るかもしれないし、育った環境が環境だけに自分には彼以外にそう呼べる相手はいない。その唯一の友人がそう言うのなら……こういうものは異性《恋人同士》でするものだとばかり思っていたけれど、自分の常識が非常識だった、とも考えられる。

 だ、けれど。
 やっぱりひとつの器のものを男ふたりでつつき合うのは何かが違うと言うか。

「溶けてしまいますよ」
「あー、ええっと、」

 否応《いやおう》なく匙《スプーン》を握らされて真向いに腰を下ろされて。
 この男はたまに強引なところがあるけれど、こちらにも心の準備というものが。

「青藍様」

 動揺を隠せないご主人様を前に、その執事は神妙な顔をする。

「……はい」
「これは、勝負です」
「勝負」

 グラウスは頂上付近のクリームを指し示す。

「交互に氷を食べていって、上のクリームを倒したら負けです。ではまず私から」

 言うなり、麓《ふもと》付近の氷をざらりと掬《すく》い、口に運ぶ。
 抉《えぐ》られた部分が心許《こころもと》ない。

「ああ!! ずるいぞ先にっ!」
「見本を兼ねまして。さ、次は青藍様の番ですよ」
「くっそー! 絶対に勝ーーーーつ!」


 まんまと執事の作戦に乗せられたことを、ご主人様はまだ知らない。



ジャック・オ・ランタンはゾンビに恋をする


 

診断メーカー様(http://shindanmaker.com/285262)より

 

青藍様は『ドSなゾンビ』に変身☆

好きなお菓子はカップラーメン。吸血鬼と仲良し。

決め台詞は「お菓子をくれなきゃ嫌いになっちゃうぞ!」 

 

グラウスは『愉快なジャック・オ・ランタン』に変身☆

好きなお菓子はハーゲン○ッツ。ゾンビに恋している。

決め台詞は「お菓子をくれなきゃ作っちゃうぞ!」

 

の2つのお題を使用しています。

 




 その人は当然のような顔で両手を差し出した。
 聞くまでもない、Trick or Treatというやつだ。
 しかし最近彼は、お湯を注いで3分、という摩訶不思議な食べ物にハマっている。きっとそれを寄越せと言うのだろう。

 あんな見るからにチープなもののどこが気に入ったのやら。
 菓子と言えばアイス、それもハーゲン〇ッツに限る。秋限定フレーバーも豊富だし。
 そうだ、たしかカボチャもあった。
 カボチャがカボチャを食べる。うん、なかなかにシュールな絵になるじゃないか。
 温かい部屋で冷たいアイス。それも2人寄り添って。もう熱いのか冷たいのかわからなくなってしまうな。だが、それがいい。

「はーやーくー」

 ゾンビのくせに食べていいのか?
 そんなことを聞いた日には、踏まれたあげくに上から目線で「俺に意見しようなんて1千年早いんじゃないの?」と嘲笑されるだろう。
 ああ、それもいい。この人は女王様的にサディスティックな仕様が似合う。

 しかしあのラーメンはいただけない。栄養バランスが悪い。
 あれを食べさせるくらいなら私が作ろう。食物繊維と愛を込めて。