【2015/04】お題:花


 

twitter300字ss様、2015年4月のお題『花』で書かせて頂いたものです。

ジャンル:オリジナル

スペース・改行除く297字。

 

【6cmの彼女】

 

 

 たしか、こんな童話があったはず。

 僕は植木鉢を前にそう思った。

 

 脇に差したラベルを見る。

 そう。

 これはただのチューリップ。

久しぶりに外に出た時に、なんの気なしに買った球根だ。

 

 でも、それなら。

 

 花の真ん中にいるのは小さい女の子。

 はちみつ色の長い髪と抜けるような青い瞳の。

 

 彼女は僕を見上げて微笑んだ。

 

 

 

 

 童話では、彼女は

窓から入って来たカエルにさらわれてしまう。

 だから僕は窓を閉めた。

 

 

 ずっと。あの日から。

 ふたりだけの世界で、僕は彼女を育てる。

 

 

 

 

 

 ある日、サイレンが聞こえた。

 すりガラス越しに紅い光が回っている。

 中のようすをうかがっている。

 

 どうしたのだろう。

 ここには僕と、

僕と同じ背丈にまで育った彼女しかいないのに。

 

 


 

ジャンル:オリジナル

スペース・改行除く300字

 

【薄荷水】

 

 

蜘蛛の巣にひっかかった蝶を助けたのは、

明日、

ボロボロの羽根だけになっているのを

見たくなかっただけ。

 

 

 

 

 

「きみは?」

 

 問われて我に返った。

 

 店の一角。

 少年が僕を見ている。

蓮の花を模した灯りが揺れている。

 

 

「なに」

「薄荷水だよ。清明の夜に、他になにがある」

 

 表に並ぶ花の名。

 それの種類なのだろうが、

全く見当がつかない。

 

 

 

「ご注文は」

「あ、ツツ、」

「菜の花。ふたつ」

 彼は僕を遮って注文を通した。

 

「ツツジは美味いけれど毒があるんだよ。酩酊する」

 それで酷い目にあった、と呟く。

 

 

 

 運ばれて来たのは光を溜めた黄色。

蜜のような味に僕は眉をしかめた。

「これがいいんじゃないか」

 彼が笑う。

 

 

 

 

 

 気がつくといつもの道にいた。

 蝶がふわりと遠ざかる。