5月23日。


 

 5月23日はキスの日&ラブレターの日、に因んで。

 キスもラブレターもない、まおりぼスピンオフ。 弱BL気味。

 

 

 

 

 

 

 

 

&ラブレターの日。

 

 

 

 

「今日はキスの日でラブレターの日なんすよ」

 

 したり顔でそんなことを言ってきたガーゴイルに嫌な予感が首をもたげたのは毎度のこと。

 だいたいそんなことを言ってくる時というのはロクなことがない。

 いや、ロクなことをしない。

 

 今回だって、

 

「ってことでぇ、第1回何人とちゅーできるか選手権ー!!」

「却下!」

 

 ブーイングの嵐にはげんこつで対処する。

いったい何を考えているんだこいつらは。

 

 

 

 やりたいならこいつらだけでやればいい。しかしわざわざ言ってくるところから考えて自分を巻き込もうと思っていることは間違いない。

 

 誰が好き好んで人外とちゅーせねばならんのだ。

 そういうものは数を競うものではなく、人前でするものでもなく、誰でもいいわけでもなく……

 

「グラウス様やらしーこと考えてるっす」

「ムッツリスケベって言うんすよ」

 

 ひとの頭の中を読むな。

 というか「やらしーこと」は考えていない。断じて!!

 

 

 

「せっかく公然とちゅーできる機会を作ってあげようと思ったのにさぁ」

 

 どっちがスケベなんだと言いたくなりそうな顔でニヤニヤと笑うガーゴイルたちに、こいつらがこんなふうになったのはやっぱり日頃のしつけが甘いからだろうか。などと思う。

 だいたいガーゴイルというのは侵入者から城をまもる守り人なわけで、城の奥で集まって猥談(エロ話)などしていていいはずがな……今、なんて言った?

 

 

 公然と?

 

 ちゅー?

 

 ……誰と?

 

 

 

 

「いろいろ難癖つけて動こうとしないムッツリスケベな誰かさんの背中を押してあげる天使のような俺らをこともあろうに殴るとか、ムッツリスケベの風上にも置けねぇっす」

「ムッツリスケベは放っておいて坊(ぼん)とるぅチャンだけでやろう」

「そうそう。ムッツリスケベはなぁんにもできないまま性欲を鬱屈(うっくつ)させてればいいんすよ」

「待ちなさい」

 

 ムッツリスケベを連呼するな。

 そういう言葉は何故かあの人の耳に入るんだから。入ったら最後――……

 

「ムッツリスケベってなに?」

 

  嗚呼。

 こうタイミングよく現れてくれるのは仕様ですかそうですか。

 ひらひらと視界の隅で揺れる蒼いリボンの端が恨めしい。

 

 

 

「ムッツリスケベっていうのはですねぇ、好き好き言えなくて歪みまくった性欲を他人には言えないような方法で人知れず処r」

「聞かなくていいです!」

 

 ひとを変態のように言うのはやめろ。

 というより、してないから。人知れずなにもしてないから!

 

 

 それよりも。

 グラウスはおそるおそる目の前のご主人様とその義妹(いもうと)に目を向ける。義妹のほうは視界に入っているだけで認識すらしていないがそれはどうでもいい。大勢には影響しない。

 

 

 

 何故ここに? 

 もしかして声かけ済なのか? やるって言ったのか? いやまさかそんなこと。でもこの人の場合、なにも考えずに「やるやるー」とか言いかねない。

 

 もしそうなら身を 挺(てい)してでも守らなければ。

 よりにもよって人外に奪われるなど言語道断。 乳臭(ちちくさ)い小娘はどうなろうと構わないが、この人に手を出すことは許さん! 絶対!!

 

 

「あ、 坊(ぼん)。グラウス様はちゅー大会に参加しないそうっすよ」

「俺らだけでやりましょー!!」

「待てぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!」

 やはり声かけ済か? やるって言っちゃったのか?

 後生だからその人は巻き込むな。小娘のほうはどう料理してくれようが(以下略)!!

 

 

 

「参加したいなら素直にやりたいって言えばいいのに」

 呆れたように溜息をつく人外を殴り倒したい。だがぐっと堪える。

 誰が言った。そんなこと。

 

「そんなこと言ってません! 却下だ、却下! 青少年の健全な育成を阻害する不純異性交遊及びそれにつながる行為は禁止!!」

「不純同性交遊ならいいんすか?」

「不純同性交遊ってなに?」

「あなたも! いちいち聞かない!!」

 

 勢い余って怒鳴りつけてしまって、はた、と気づく。

 しまったこっちはガーゴイルじゃない。

 

「いや、ええと、だから! こっ、こういうのはですね! ラブレターを贈りあうなどしてお互いの気持ちを確かめて、で、しかるべき期間を過ごした後に、」 

「ラブレター」

 ガーゴイルたちの動きがぴたりと止まった。

 

「そう言えば今日はラブレターの日だったっす」

「すっかり忘れてたっす」

 どよどよと顔を見合わせるガーゴイルたちに、よかった、これで乱交パーティの如き事態は避けられそうだ。

と、ほっと胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

 と、思ったのもつかの間。

 

 

 

「それじゃあ、第1回ラブレター音読選手権~~!!」 

 

 ……なんだそれは。

 唖然としているグラウスの前でガーゴイルたちがごそごそと出してきたのは、どうにも見覚えがありすぎる年季の入った封筒の束。

「この出すあてもなくしまいこまれたままのラブレターの数々を皆の前で読み上げて、一番感動させた人が優勝っす!」

 

 

 待て。

 それは何処から持ってきた!?